保健室の先生である養護教諭というお仕事。あなたも学生時代、一度くらいはケガや体調不良でお世話になったのではないだろうか。養護教諭の役割は、ケガや病気の応急処置にとどまらず、児童・生徒の日々の健康管理や保健指導、身体検査の実施、修学旅行の同行なども含まれる。また、子どもたちと委員会活動を行うことや保健室で個々の悩み相談に乗ることも職務の一環で、学校における養護教諭の存在は欠かせない。
しかし、ネット上でたびたび散見されるのは「養護教諭は就職できない」ってことや「養護教諭が実は就職難」という、養護教諭を目指す人にとっては心配の種になるような疑問や悩ばかり。これは一体どういうことなのか?
本記事では、養護教諭が就職できない、就職難といわれる理由について詳しく解説していくとともに、本当のところは「就職できないわけではない」ことについてもまとめているので、ぜひ最後まで読み進めていただきたい。
養護教諭が就職できない、就職難といわれる理由は3つある
- 理由1. 辞めないから就職難になっている
- 理由2. 公立学校で働くには資格だけでなく教員免許状も必要
- 理由3. 養護教諭の採用倍率は10倍を超えることもある
養護教諭養成課程のある大学・短大・専門学校を卒業して養護教諭免許状を取得したからといって油断は禁物だ。養護教諭が「就職できない」「就職難」といわれる理由について解説していく。
理由1. 現役の養護教諭が辞めないので就職難になっている
養護教諭の配置人数は、義務標準法により規模の大きい学校や特別支援学校で2人体制、そのほかのほとんどの学校は1人体制となっている。そのため、正規職員が出産や育児・介護・病気治療などに専念するといったよほどの理由がない限り仕事を辞めないので離職率が低い。そうすると、養護教諭の空きは常にない状況が発生してしまうため、就職できない人や就職難に見舞われる人が出てくるのだ。
理由2. 公立学校で働くには資格だけでなく教員免許状も必要
公立学校で働くことを希望する場合には「地方公務員」になることが必須のため、各自治体が行う教員採用試験(養護教諭採用試験)に合格し、教員免許状を取得する必要がある。
試験に合格するだけでも難しいのに、取得までなかなか難しいこともあり、養護教諭は就職ができないと言われることも多いのだ。
理由3.養護教諭の採用倍率は10倍を超えることもある
ここまでの経緯をまとめると、離職率が低く空きがないということは、必然的に教員採用試験合格は難関であると解釈することができる。実際に数字で表すと、受験者数は毎年約9,000人程度いるが、2012年から2021年までの合格採用者数は平均で1,315人となり、採用倍率でいうと約7.0倍となる。下のグラフを参考にしていただきたい。
さらに細かく情報を追っていくと、都道府県別では学校数や空き状況の違いはあるが、採用倍率が10倍を超える自治体もある。ちなみに、2023年度最も倍率が高かったのは徳島県で38.0倍、最も低かったのは北海道の1.7倍である。
都道府県 |
受験者 |
合格者 |
倍率 |
---|---|---|---|
徳島県 |
114 |
3 |
38.0 |
大阪府 |
362 |
25 |
14.5 |
東京都 |
646 |
121 |
5.3 |
北海道 |
304 |
181 |
1.7 |
養護教諭は就職できないの不安を解消!もし就職浪人になりそうだったら?
教員採用試験(養護教諭採用試験)の合格が難関であるため、受験勉強や受験対策をいかにしてきたかが試される。ただし教員採用試験は毎年必ず1回実施されるため、もし落ちたとしても次年度再チャレンジすることが可能だ。また、試験日が重なっていなければ複数の自治体で受験することもできる。それをふまえた上で、就職浪人になりそうだったらどうすればよいかについて解説していく。
養護教諭のいない学校はいない!講師名簿登録をして非常勤講師として働こう
まず大前提として、養護教諭のいない学校は存在しない。しかし各自治体は、講師名簿登録および非常勤講師を随時募集している。募集している目的は、正規職員が休暇などで不在となるあいだ。これは養護教諭の欠員補充として、一定期間代わりに働いてくれる人材を登録者の中から採用するためだ。
採用の声が掛かるかどうかは空き状況次第なので保証はできないが、登録は募集職種の普通免許状があれば条件を満たすため、すでに取得している養護教諭免許状があれば登録可能となる。養護教諭の非常勤講師になる上で知っておくことがある。それは任用期間がそれぞれの任用要件によって異なること。また、会計年度登録制としているため1回の任用が1年を超えないことである。
しかし仕事内容は正規職員と同等であることから、大学などで学んだ知識や技術、コミュニケーション力を教育現場で最大限活かすことができる。詳細については、各自治体のホームページから情報収集しよう。
企業からの募集も?養護教諭の資格を活かせる仕事に就こう
- 企業の保健室で働く保健師や看護師
- 企業での子ども預かりサービス
- 学童保育や幼稚園で働く保育士や幼稚園教諭
- 認定こども園
他に資格が必要な職種もあるが、養護教諭の資格を持っていると、子どもたちの健康管理や教育に関われる仕事の求人募集がたくさんある。養護教諭は子どもへの知識や経験が豊富なので、その強みを活かせる仕事を探せば意外と見つかる。
実際に株式会社リクルートジョブズの運営する【とらばーゆ】などでは、そういった求人が多く見つかるので覗いてみると良いだろう。
【とらばーゆの意味を解説】女性向けの転職サイトで4つの意味がある?
公立だけでなく私立学校への就職も視野に入れよう
公立学校のほかに、私立学校で養護教諭になるという選択肢があることもお伝えしておこう。公立学校と私立学校の違いを簡単にまとめると次のようになる。
【公立学校】
- 受験申込は各自治体へ行う
- 教員採用試験は各自治体で実施する
- 合格採用者の勤務先の決定権は各自治体にあり、数年で異動もある
【私立学校】
- 受験申込は各学校(法人)へ行う
- 養護教諭免許状があれば受験できる
- 採用試験は各学校(法人)が独自に実施する
- 受験する学校は自分で決め、採用が決定したらその学校に就職する
上記は大きな違いにのみフォーカスしているが、公立学校は地方公務員という安定さがある反面、私立学校のように就職したい学校を自分で選ぶことができない。このように、双方それぞれに長所・短所があるため見極めが必要である。
そのため、雇用形態、給与、福利厚生面などをしっかりと比較検討し、自分の希望に合う職場や働き方を選択することが望ましい。また、就職先に関して効率よく情報収集したければ、教員支援エージェントにサポートしてもらうのもいいだろう。
英語ができれば資格を活かして海外で働こう
もし語学力があるなら、養護教諭の資格を活かして海外で働くという道もある。方法はいくつかあるが、ここでは2つほど紹介する。
ひとつは日本人学校や日本企業の現地法人などに養護教諭として採用されること。これは日本の養護教諭と同じような仕事内容で、海外で暮らす日本人の子どもたちの健康管理や相談に対応するものだ。ただし求人数は少なく競争率が高いので就職できない人も多い。
もう一つは、海外のスクールナースとして働くこと。これは海外の学校に看護師として配置される職種で、生徒や教職員のケガや病気の処置や予防などをおこなうもの。とはいえこちらも現地の看護師免許を取得する必要があり、日本の養護教諭よりも医療的な知識や技術が求められる。
どちらにせよ簡単ではないが「海外で養護教諭として働いてみたい」という人には面白い選択肢のひとつと言える。英語ができるなら挑戦してみる価値はあるだろう。
養護教諭の苦労エピソード!就職できないと悩む人にもチャンスあり
養護教諭は「子どもたちの健康を守ること」が仕事であり誇りもあるが、ほかの一般教員と違い1人で対応することが圧倒的に多い。そのため、周りに協力してもらうスタンスでいなければ1人で苦労を抱え込むことになり、いずれ辞めたいと考える人も出てくるだろう。
養護教諭のお仕事あるある!苦労エピソードと辞めたい理由について
まずは養護教諭の主な仕事内容についておさらいする。
養護教諭の仕事内容
- 学校保健情報の把握:生徒の体力、疾病、体格、栄養状態の実態把握や、生徒や児童が抱える悩みなどの心の健康に関する実態を把握する
- 保健指導や保健学習:心身の健康に問題がある生徒に対する個別指導などを行う他、学校行事や学級活動での保健指導を行う
- 健康診断:定期・臨時の健康診断の立案や準備、指導や評価を行う
定期健康診断は年間行事として、4~5月に行われることが多い
- 応急処置の実施
- 学校環境衛生に関する業務
- 伝染病の予防に関する業務
- 保健室の運営
学研ココファン引用
学校全体の保健管理と子どもたちのサポートをすることが養護教諭の職務だが、ご覧の通り上記を1人で行うのだから仕事量は膨大である。加えて学校という環境ならではの、ツラいと感じてしまう苦労エピソードは付きものだ。そこから浮かび上がる辞めたい理由についてもまとめる。
【苦労エピソード】
- 仕事で分からないことや確認したいことがあっても、校内に養護教諭が1人だけなので、すぐに相談できる同僚や先輩がいない
- 1日を保健室で過ごすことが多く、ほかの教員との関係構築が難しい
- 専門職のため、ほかの教員に悩みや困り感を理解してもらえない
- 事務作業や書類作成が終わらなければ残業が増え、家庭やプライベートとの両立が大変になる
- 仕事内容が専門的で自分以外に代わりが効かないため、仕事量を減らしたり家庭の都合で休んだりできない
- 古い体質の管理職やベテラン教員と方針や考えに違いが生じやすい
- 公立学校で勤務している場合は数年おきに異動の辞令があるため、異動先で一から関係構築するのがツラい
- 感染流行時期の嘔吐など、汚い仕事が苦手
- 生徒の命を預かる仕事なのに給与がそれに見合っていない(と感じてしまう)
養護教諭は包容力があって優しい印象を持たれがちだが、各学校に1人しかいない職種のため、仕事に対して負担を感じやすい環境に置かれていることが分かる。そのため、自分の頭でよく考え、周りに振り回されることなく行動を起こしていける人でなければ孤立することが想定される。結果として「こんなに大変なら養護教諭を辞めてしまいたい」という気持ちもどんどん膨らんでいくのだろう。
保護者からのクレームでうつ病になる人もいる
例えばこんな事例がある。
保健室で子どものケガの対応をした。そのことを担任へ伝達し保護者への連絡も滞りなくしたが、放課後保護者からクレームが入った。
その場合、保護者の心配事をひとつずつ解決していくのが基本的な対応であるが、意図せず相手を逆なでしてしまうケースもある。そうすると、当然その保護者とのやりとりが増え精神的にも体力的にもストレスを感じ始める。養護教諭はそういった場合にも真摯に向き合わなければならず、うつ病になることも珍しくない。
もしうつ病になってしまったら、日常生活にも支障が出るため仕事を継続することはまず難しい。このように、養護教諭の病欠や退職理由のひとつにはこのような背景が潜んでおり、当年度欠員補充や次年度新規採用を検討する学校もあるだろう。こうして採用枠が増える可能性もある。
養護教諭の仕事はやりがいも大きい!就職できないと諦める必要なし
すでにお伝えしたとおり養護教諭は各学校に1人しかいない。一般教員の担任や部活動の顧問といった一定範囲の職務ではなく、全校児童・生徒と関わる仕事である。養護教諭は専門的視点で教育に携わり子どもたちのサポートをする。また成長過程の多感な子どもたちと一緒に学校生活を送りながら、ときには寄り添い話を聞いたり励ましたりする大変な仕事だ。
しかし養護教諭の存在や保健室の空間が子どもたちの心のよりどころとなれるだけでなく、子どもの成長を見届けられる養護教諭という仕事はかなりやりがいもある。
だからこそ「就職が難しい」「養護教諭に就職できない」といった理由で諦める必要はない。確かに簡単に働けるわけではないが、努力と考え方次第で就職も充分に可能だ。
- 現役の養護教諭が辞めないので就職難になりやすい
- 各学校で配置人数が1〜2人だけ
- 公立学校で働くには資格だけでなく教員免許状も必要
- そもそもの教員免許の試験もむずかしい
- 採用倍率は10倍を超えることもある
また養護教諭として働ける道もたくさんある。
- 一般的な企業からの募集も検討する
- 私立学校への就職も視野に入れる
- 教員採用試験のための勉強と対策を万全にする
- 自治体の講師名簿登録をして非常勤講師として働く
- 企業からの募集もチェックしてみる
- 英語が得意なら海外で働く道も検討してみる
- 空きがでるまで就職活動を続ける
養護教諭は非常にやりがいあふれる仕事であるのはもちろん。最近の教育業界の動向として、少子化の一方で不登校や虐待、発達障害など子どもの抱える問題が多様化など。多くの自治体で、養護教諭の配置基準の拡大や緩和を求める声も上がっている。なので、そういった教育現場にあなたが迎え入れられるか可能性は決して低くないだろう。
将来を生きる子どもたちのためにも、あなたのやりがいのためにも。まずはここであげた方法を実践してダメだったときに考えれば良いのだ。あなたが将来的に教育現場で、養護教諭として働けることを筆者としても応援している。